恋人や夫婦のあいだで、気持ちがすれ違ってしまうことは誰にでもあります。
「言ってもわかってもらえない」「つい感情的になってしまう」――そんな経験はありませんか?ノルウェーのPREPプログラム(夫婦関係改善と問題予防のプログラム)で紹介されている「話す・聞く技法(Tale-lytteteknikken)」は、そんなときに役立つシンプルで実践的な方法です。
PREP7では、「聴く・話す技法」を中心に、五つのコミュニケーションの姿勢について触れました。今回のブログは「よりよいコミュニケーションに向けて」と題して、もう少しこのテーマを深堀していきたいと思います。
1️⃣ 「話す人」と「聞く人」を分ける意図
「聴く・話す技法」技法では、会話の中で「話す人」と「聞く人」の役割をはっきり分けます。
話す側は、自分の気持ちや考えを「私」を主語にして伝え、
聞く側は、相手の言葉をさえぎらずに聴き取り、自分の言葉で言い換えて確認します。
こうすることで、
・相手の意図を正確に理解でき、
・感情的なすれ違いを防ぎ、
・「理解されている」という安心感が生まれます。
2️⃣ 「あなた」ではなく「私」を主語にする
伝え方のコツは、「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じた」と言うこと。
これを「私メッセージ」と呼びます。相手を責めずに、自分の体験として話すのです。
例:「私は…」に続けて、
・中立的に:「祖母の米寿の誕生日を、どうお祝いするか話したい。」
・ポジティブに:「タイヤを替えてくれて嬉しかった!」
・ 建設的に:「電話中に話しかけられると集中できなくて少しイライラします。終わるまで待ってもらえますか?」
「私メッセージ」は、責める口調をやわらげ、対話の扉を開くカギになります。
3️⃣ 建設的な批判にする5つのポイント
誰だって、批判されるのは気持ちのいいことではありません。
でも、言い方次第で「壊す批判」から「育てる批判」に変えられます。
次のポイントを意識してみましょう👇
・「私」を主語にする
・具体的な出来事を話す
・何を言われた/されたのかを明確に
・どう感じたのかを伝える
・改善案や希望を添える
批判は人格攻撃ではなく、行動に対する具体的な反応として伝えるのが重要です。
4️⃣ 言葉以外のサインも大切に
会話の中では、表情・目線・声のトーン・姿勢などの非言語的なメッセージも重要です。
たとえば、スマホを見ながら「どうしたの?」と聞くよりも、
相手の目を見て「どうしたの?」と言うほうが、ずっと誠実に伝わります。
言葉と態度が一致すると、相手は「本当に関心を持ってくれている」と感じます。
一致しないと、逆に不信感や不安が生まれてしまいます。
5️⃣ この技法が役立つとき
次のような状況では、話す・聞く技法が特に効果的です。
・感情がぶつかって、話が平行線になるとき
・相手の意図を誤解してしまうとき
・どちらかが会話を避けてしまうとき
期待できる効果は…
・言い争いがエスカレートするのを防ぎ、
・相手を傷つける言葉を減らし、
・誤解をその場で修正でき、
・会話から逃げずに向き合えるようになります。
6️⃣ 「なんだか不自然…」でも大丈夫
最初は、形式ばっていてぎこちなく感じるかもしれません。
でも、それでいいのです。
楽器を演奏するときも、最初は譜面通りに練習しますよね。
慣れてくると、自然にリズムが生まれ、即興もできるようになります。
この技法も同じ。練習すれば自然に「心で聞く会話」ができるようになります。
7️⃣ ゆっくり話すことが、いちばんの近道
この方法では、会話のテンポがゆっくりになります。
でも、焦らずに相手の話を聴くことが、最終的に「一番早い」理解の道になるのです。
早口でぶつけ合うよりも、丁寧に聴き合うほうがずっと生産的です。
8️⃣ 感情があふれたら「一時停止」を
どんなに気をつけても、感情があふれてしまう瞬間はあります。
怒りや悲しみが強すぎて、冷静に話せないときは思い切って中断して休憩するのが正解です。落ち着いてから、もう一度向き合いましょう。
9️⃣ 「技法」から「姿勢」へ
最終的には、この「話す・聞く技法」を単なるテクニックではなく、
「相手を理解しようとする生き方」として身につけることが目標です。
このプロセスは、心理学でいう「メンタライゼーション」――
つまり「自分を外から見て、相手を内側から理解する力」――を育てます。
それが、関係をより深く、思いやりに満ちたものへと導いてくれます。
まとめ:ゆっくり、丁寧に、心で聞く
「話す・聞く技法」は、完璧にこなすためのルールではなく、
「わかり合いたい」という気持ちを形にするための小さな枠組みです。
たったひとつのルール――「私はこう感じた」と伝える勇気――が、
あなたの人間関係を優しく変えていくかもしれません。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。PREPシリーズはまだまだ続きます!
PREP:夫婦関係改善と問題予防、なおかつ学んで練習してみるプログラム
PREPは英語のPrevention and Relationship Enhancement Programの略で、夫婦・カップルの関係を予防と強化するためのプログラムです。80年代に米国・コロラド州、デンバー大学の研究をもとに開発されたもので、それがModum Bad (モードゥム・バード)というノルウェーの精神保健研究施設で、ノルウェー仕様にアレンジされてきました。私はプライベートでも夫とミニ・コースに参加したことはあるのですが、2015年にコースリーダーの資格を取得した次第です。
フルのPREPコースは14章からなっており、自分たちのお互いとの関わり合い方(コミュニケーション)での危険因子を探ってみたり、コミュニケーションツール(スピーク&リッスンテクニック)があります。また、日常の様々な問題を建設的に解決する方法も学びます。その一方、二人の関係の強みを強化していくことにも注目します。まとめると、弱い所を補正して、強い所をより発展させていく。アメリカっぽい感じのプログラムです。


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