PREP(プレップ:夫婦関係改善と問題予防のプログラム)その2・エスカレーション

パートナー(夫婦や恋人関係)と口論になってしまった時、もともとのきっかけはたいしたことではないのに、すごいケンカになってしまった…という経験はお持ちですか?そんな時、どんな風にお感じになりましたか?「こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなっちゃうんだろう」とか、「なんか、いっつもこんな風に口論が激しくなって嫌な気持ちで終わるんだよね」など。ちょっと罪悪感を感じたり、または嫌気がさしてしまったりするかもしれませんね。
今日はPREP(プレップ)、Prevention and Relationship Enhancement Program、直訳すると「カップルの関係における問題予防と関係強化プログラム」からお伝えする続編です。PREPでは、無意識に繰り返されるネガティブなコミュニケーションのパターンを「4つの危険信号」と呼んでいます。これらの危険信号はとても身近なもので、誰でも経験があったり身に覚えがあるものばかりです。ただ、危険信号はほおっておくと、長期的にカップル存続の危機にもなりかねないといったもので、PREPでは手遅れになる前にそこに気付き、解決方法を試していくことを提唱しています。
今日はその中から最も一般的な危険信号、「エスカレーション」について。PREP全体については以前の記事でご紹介していますので、こちらのリンクからどうぞ。

 

人間関係にケンカはつきもの

まず、人間関係におけるケンカや対立について…ですが、夫婦でも親子でも、親しい間柄にある方とのケンカはつきものだと言ってよいと思います。親しければ親しいほど、感情的になったり。でも、それは相手の大切さを表すバロメーターになっているかもしれません。大切ではない人って、あんまり腹も立ちませんもんね。
生活を共にするパートナーとの関係は、自分が生まれ育った家族環境からコミュニケーションのパターンを持ち込んでいる部分が大きいです。例えば、ケンカに対して極端にネガティブな見解のご家庭から来られた方、本音で話す環境ではなかった方は、パートナーさんとの関係においてもなかなか自分の言いたいことを言えないでいることが多いのでないでしょうか。

私の体験からの個人的な見解になりますが、ケンカは絶対避けなければいけない… というものではなく、どんなふうにケンカをするか、又はケンカ後の処理の仕方が最も重要なのではと思っています。ケンカには「建設的」なものもあり、それは、言い合ってしまったけど、逆にお互いの本音がわかったり、フラストレーションを吐き出せたりと 絆をより一層強くする場合です。一方、ケンカの仕方として気をつけたいのが、「NGな言葉」。例えば、相手が絶対聞きたくないことや、相手の人格を傷つけてしまうような発言。もちろん、物を投げつけたりや暴力的な行為もNGです。また、ケンカ後の処理については、必ずお互いに悪かったことを認めて謝り、仲直りすることが信頼回復のためには不可欠ではないでしょうか。

ただ、ケンカが頻繁で、しかもいつも嫌な気持ちで終わってしまい、仲直りできずにいるとしたら…。関係自体がだんだん悪くなって、もしかして一緒にいる意味を感じなくなってしまうかもしれません。

 

危険信号 ー エスカレーション 

では、PREPがお伝えするエスカレーションとは、どんな状況なのでしょうか。例えば… 相手が約束に遅刻した、やると言っていたことを忘れた、などの日常の些細なことでケンカに発展し、相手が非を認めないことで、お互いに自分の正当性を主張し、最終的にに言い争いの収拾がつかなくなるコミュニケーションのことを指しています。たいがい、こんな時はお互いに怒りも強くなっていき、冷静に考えられなくなっています。相手の話を聞くことよりも、次になんて言ってやろうかと考えます。つまり、口論に勝ちたい意識が働くのです。しかも強い感情が働くので、どなったり、時には物にあたってしまったり ひどいことを言ってしまうことも。結果、お互いに傷つけあって、嫌な後味がのこり、誰も得する人はいません。それに、毎度のちょっとした意見の食い違いががこんな風に嫌な感じで終わってしまっていたら、しんどいですよね。

みなさんは、どのようにヒートアップしてしまったケンカを終わらせていますか?その後、どんな風に仲直りに持っていかれますか?また、エスカレーションが無意識のうちに繰り返されてはいませんか?
PREPでは以下のことを提案しています。

a. 早い段階で中断する

ああ、また言い争いが始まって来た…と、気が付いたら 一旦「わかった。怒ってるのはよくわかった。でも、いったんやめて後でまた話そう」と、一方が早い段階で引くことです。一人がちょっと引くことで、相手もちょっと落ち着きを取り戻すのが期待できます。それはどうしてかというと、言い合いをするのは通常、自分の事を見てほしい・聞いてほしいという欲求から来るもので、「わかった」と相手に言ってもらうことで少しこの欲求が満たされ、エスカレートさせる必要がなくなるから…ではないでしょうか。

b. 自分が正しい=相手に勝つ…のをやめる

この言い争いで自分が正しいと証明したからといって、どんなメリットがあるのでしょうか。自分が正しいと証明することより、もっとカップがチームとして上手くやっていくことの方が大切なのではないでしょうか?もしも何が大切でどこを目指しているかわかっていたら、無駄な言い争いも意味がない…と、思えるかもしれませんよね。

c. 落ち着くために他のことをする

親しい人との言い争いって、腹が立ったり・傷ついたり、強い感情がわいてくるものです。かといって強い感情で心がいっぱいになっているうちは冷静に話すことも難しいと思われ、どうしても心を落ち着けさせることが必要になってきます。こういう時は、いったんその場を離れ、散歩やジョギングに行ったり、怒りのエネルギーを他の建設的なこと(例えば家事)に向けてみるのもアリかもしれません。

 

まとめ

意見の食い違いがもとで言い争いになってしまって、「エスカレーション」してしまう事って、「ある・ある」とうなづいていただけたかと思います。うちも例にもれず…たまに「やっちゃったよ」ということはあります。

実際私がお話を聞くカップルの方々には、「ケンカが絶えない」という方々もいらっしゃって、この時のケンカのパターンはエスカレーション型が非常に多いかと思います。そして、気になるところは「ケンカについてパートナーさんとお話されていますか?」と聞くと、ほとんどの方が「話していない」というのです。もしかすると、普段から話ができない…という方々もいらっしゃるかもしれません。こちら、西洋ではやはりオープン・コミュニケーションが良しとされている文化的な背景もあり、PREPなどで提唱されていることもはやり「夫婦でよく話し合いましょう」的なアドバイスが多いのです。ただ、パートナーとあまり話ができない、相手がそういったことを好まない場合もありますよね。
人と人との間のコミュニケーションって、相手の出方に影響されることも多く、もちろん自分が出方を変えれば 相手の出方も変わって来ることも期待はできるのですが…。やはり、カップルの関係って二人の個人が共に作っているもの…と考えると、一人ではなく二人でこのことを一緒に考えられるのがベストではないでしょうか。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(記事の内容は2022年5月に掲載した Hatena Blogのものを改訂しなおしたものです。)

 

 

 

 

この記事を書いた人
may.juni

いがらしまゆみ。北海道出身。95年ノルウェーへ個人留学。貧乏学生時代を経て、現地で就職・結婚。20年以上のキャリアを持つ、ノルウェー公認ソーシャルワーカー。現在ノルウェー人夫とオスロ近郊で二人暮らし。日本人xノルウェー人カップルが持つ様々な問題・チャレンジに遭遇し、2018年にファミリーセラピーの修士課程卒業。現在、オスロ市で精神障害・精神疾患のユース世代の支援を本業とし、カウンセリングルーム・ハンブルネスは副業として従事。

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